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旧レビュー転載 Pat Metheny Group [ Speaking Of Now Live ]

メセニー・グループについての私的考察

<旧Webサイトに掲載していたCDレビューからの転載です>

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[Speaking Of Now Live] / Pat Metheny Group
2003/5/28, Videoarts Music Inc.

Pat Metheny - acoustic & electric guitars, synthesizer
Antonio Sanchez - drums
Richard Bona - vocals, acoustic guitar, fretless bass, percussion
Lyle Mays - piano, keyboards
Steve Rodby - cello, acoustic bass
Cuong Vu - vocals, trumpet

Speaking Of Now Live


あああ、おどろいた。
あたしゃ、びっくらこいた。久しぶりにびっくりした。

昨日のメールにも書いたメセニー・グループの最新のライブ映像「Speaking Of Now Live」のDVDが届いたので、早速見てみたのだが。 まじに驚いた。
開いた口がふさがらない。 2時間15分、鳥肌が立ちっぱなし、目は点。最後には笑うしかなかったね。

実は新生メセニー・グループって、CDの「Speaking Of Now」を聞いた限りにおいては、そんなに評価してなかったんだけど、俺が甘かったな。
これは一種の奇跡だ。
メセニーのギターは、全ての曲で、もう上手いとか下手とかのレベルを超越して、ミューズすら見える。

まあ、メセニーのギター・プレイには既に確立されたスタイルがあって、今となっては新鮮さという部分では薄れてしまった感は否めない。

でもね、理論的肉体的にアナライズできるって事と、リアルタイムにクリエイトできるって事の差は、100万光年以上あるんだよね。
このライブ映像の全ての曲で、今までのメセニーに期待する以上の演奏が繰り広げられる様は圧巻すぎる。
あれだけエモーショナルなプレイなのに、信じられないほどの緻密なフレージングと凄まじく高いレベルで安定した技巧を維持できるということは、たぶん実際はここで聞ける演奏の100倍はギターが弾けるということなのだ。
ギターという楽器を究極まで理解することによって楽器の呪縛から解放された希有なギタリストであることは間違い無い。

そしてメセニーの凄さは更にそこから先にある。
未完の楽器の呪縛から解き放たれた、恐ろしいまでに研ぎすまされた芸術性だ。
正に「パガニーニ以降の弦楽器の奇跡」と称して余りあるね。

18世紀に活躍したバイオリン奏者、ニコロ・パガニーニは悪魔に魂を売って超絶技巧を手に入れたと噂された。(私も若かりし頃はパガニーニの楽譜を買ってきてギターで弾きこなす練習をした記憶があるのだが。)

しかし、メセニーの技巧は魂を売るような目的ではなくて、自らの芸術性(魂)を表現する為に必要不可欠なツールでしか無い。
逆説としては、あそこまでの超絶技巧を駆使しなければメセニーの芸術性は具現化できないほど高いレベルにあるということなのだ。

新人ドラマー、アントニオ・サンチェスは、完全にいっている。
目があっちへ行っていたもん。
映像を見る限り何かが取り付いているとしか思えない状態だ。
非常に複雑な変拍子をいとも自在に操り、しかもソロでも1人ポリリズムを見事に叩き出す。
凄まじいドラマーだ。
ワイルドなんだけど、十分に音楽的であるところが流石(メセニーの眼力がだよ)である。

クン.ヴーってどうかと思ってたんだが、これが意外に良い。
アバンギャルドな世界と、非常にメロデイアスな世界をセンシティブに切り替えられるミュージシャンだね。
トランペッターとしての実力の全ては、今回のライブ映像だけでは想像付かないのだが、音楽性の豊かさは十分に感じられる。
メセニー・グループでオリジナルの3人以外に要求される、マルチ・インストルメント奏者としての役割もきちんとこなしているし、たぶん努力の人だね、この人は。
にじみ出る人柄の良さと、控えめな中にアジア人としての諸々の差別を乗り切ってきた信念と努力が感じられる雰囲気は、まあ私なんざシビレちゃうよね。

リチャード・ボナは、確かに天使の歌声だ。
実は、この日のNHKホールのライブでは、「Bright Size Life」とかでジャコの代わりにフレットレスを弾きまくったりした、ボナ・フィーチャーのコーナーがあったのだが、残念ながらそれらは収録されていない。
しかし、アンコールでは凄まじいまでのベースソロを聞くことができる。私はぶっとんだ。
だって、すげーベース弾いたよ。
光の速さだけどメロディアスだし、ちょうどベンソンがギターを弾きまくっている感じでベースを弾いていたのだが、フレーズはベンソンより全然モダンでかっちょいいし、スキャットもベンソンより全然上手いし。まいったなあ。

考えてみれば リチャード・ボナにベーシストとしての役割を与えないバンドなんて、このメセニー・グループと渡辺貞夫のツアー・バンドくらいだよなあ。(ナベサダの場合は、単なる勘違いで、ボナがベースを弾けること自体を知らなかったというから大笑いなのだが。)

しかし、今更ながら、なんというグループなんだろう。これはもう、人類という歴史が誇るべき文化の1つの到達点だな。
人類そのもののアイデンティティになりうる現象だよ。

でもね、非常に誤解を招きかねない言い方になるが、パット・メセニー・グループってそろそろ限界なのかもしれない。
前述したようなこのバンドの音世界は、個々を取り上げてみれば我々の事前の予想の範疇には無いとしても、しかし、その結果としてはやはりパット・メセニー・グループのそれを逸脱したものでは有り得ない。
それは今後もそうであると予測されてしまう。
大きな意味では、確かにクラシックはクラシックでしか無いように、ジャズはやはりジャズでしか無いし、例えばブラジル音楽はブラジル音楽でしかないわけで。

つまりさ、それは文化なんだよね。音楽という芸術形態としては同じであってもね、商業的なカテゴライズは無意味であってもだ、それらには歴史が有り固有の意味が有る。
それは、とてつもなく広義なことなんだけど、これらと同じ地平で、すでにメセニー・グループはメセニー・グループでしかないという地点に到達してしまったのだと感じる。

もちろんジャズはジャズでしか無いと言っても、その中でジャズは宇宙の膨張のように広がっていくだろうし、民族音楽にしても様々な変貌を遂げて来たわけで、今のメセニー・グループも文化的価値観の変化に伴って様変わりはして行くだろう。
でも、それは前述の意味において、やはりパットメセニー・グループの世界の延長上にある。延長線上という表現が短絡的だとしたら、放射状の広がりの中心には、あの3人がいるわけだ。

このバンドが全く新しい宇宙を形成できるとしら、スティーブ・ロドビーが脱退する時なのだ。
だから私はリチャード・ボナの参加という話を聞いたときに、ものすごく期待したのだ。
もちろん、スティーブ・ロドビーって悪く無いよ。
このDVDでも、本当にメセニー・グループらしい、珠玉のベース・ソロも披露してるしね。私は感動したもん。でもね、それとこれとは主旨が違うんだ。

文字通りの転機「Offramp」でベースがマーク・イーガンからスティーブ・ロドビーに変わり、試行錯誤の末にドラマーもダン・ゴットリーブからポール・ワティコに代替わりした時点で、メセニーグループは確かに変貌を遂げた。バンド・サウンドの変化というより、可能性の方向が変わったのだ。

変わった途端に、名作「First Circle」が生まれた。
あのアルバムは、それまでのメセニー・グループの集大成的な雰囲気を醸し出しながらも、全く新しいエッセンスが存在した。
そして、バンドの熟成の過程で「Still Life」と「Letter From Home」が生み出された。私は、この時期のメセニー・グループが未だに頂点であると信じて疑わない。

ライル・メイズ不在のメセニー・グループはもはや別のバンドである。
この意見には異論の余地は無いでしょ?
とすれば、メセニー・グループとしての存在を継続させつつ新しい世界を切り開く為には、ベーシストとしてのスティーブ・ロドビーがネックだと言わざるを得ないんだよね。

アントニオ・サンチェスとリチャード・ボナって、どうよ?なかなかイケるんじゃないのかなあ。

This text was written by M.Yamaguchi. 2003/May

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で、せかっくだから、この時期の Pat Metheny と Antonio Sanchez、そして Richard Bona のトリオ演奏の動画を貼っておきます。
曲は「Bright Size Life」、素晴らしいセッションです。

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