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旧レビュー転載 Herbie Hancock [ Future 2 Future Live ]

恐るべし!ハンコックの予言

<旧Webサイトに掲載していたCDレビューからの転載です>

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[Future 2 Future Live] / Herbie Hancock
2003/8/20 Videoarts Music

Future 2 Future Live


なんじゃこりゃあ!

それほど期待していなかった私が馬鹿でした。
このDVDには、間違いなく今一番新しい「ジャズ」の姿が記録されている。
もちろん「ジャズ」本来のパワーに満ち溢れているし、音楽としてのピュアな感動がある。
そればかりか、たぶん、このDVDには音楽の未来が予言されている。
とにかく、素晴らしい体験であった。


端的に言えば最新クラブ・カルチャーとハンコックのコラボレイトという意味で話題となった2001年発表CD「Future 2 Future」のコンセプトによるライブ映像である。
私としては1983年の「Future Shock」がそうであったように、「Future 2 Future」にはそれほどの感慨を受けなかった。
確かにハンコックのピアノのテンション感は素晴らしいし、サンプリング・テクノロジーの最先端という意味では興味深い内容ではあった。
しかし、アルバムとして、特に衝撃を感じることは無かったのだ。


クラブ・カルチャーって、結局はダンスなんだ。それは、ビートとリズムの世界。
どんなに最先端の技術を駆使しても、どんなにファッショナブルな空間が形成されていても、どんなに反体制(政治的にすら)なアジテーション・メッセージが込められていても、意味としては原始人の踊りと何ら変わりはないはず。
最終的には、踊るという行為がもたらす作用に重きがある文化だと思う。
私の立場としては、それは音楽として純粋に考えた場合、バランスを欠いていると言わざるを得ない。
だからこそ、そこにハンコックの新鮮なハーモニー感覚に対する憧れが生まれたということもあるだろう。
でもね、音楽って、リズムとかハーモニーとかに明確に区分された独立したファクターの集合体では無いんだ。
リズムが変わればハーモニーも変わる、当然メロディーの意味やニュアンスが変わってくる。
そして、瞬間瞬間の変化の連続で音楽がクリエイトされて行く。
私が常々クラブ・ミュージックに踏み込めないのは、まあ、歳のせいもあるんだろけど、ミニマルなリズムだけでは音楽は進化しないというスタンスだからである。


それよりも、私としても最近いろいろなところで耳にする「ハンコック限界説」が、かなり気になっていた。
ハンコックも齢63だ。一般的には老人と呼んでも良いだろう。
もちろん、音楽シーンでは未だに若々しくアグレッシブな活動に衰えは感じさせない。
しかし、ハンコックが音楽シーンのイノベーターであり続けることに対して、様々な切り口から疑問の声が上がって来ていたことは事実だ。
端的にまとめると、「もはやハンコックの方向性と音楽シーンのベクトルにずれが生じてはいまいか?」という疑問だ。
確かにハンコックのインプロヴァイズするピアノは、それだけで混沌としたシーンに風穴を開けるだけのパワーがある。
だが、ハンコックの存在にシーンの未来を託せるのか、いや、託して良いのか?
まあ、ハンコックの存在意義に対するそんな疑問は別として、未だにハービー・ハンコックに指針を求める我々はいかがなものかと・・・、私自身そんな風に考えてしまう昨今ではあった。


しかし、まいった。
CDの「Future 2 Future」は、このライブの為の単なる音資料だったと言っても過言では無いかもしれない。見事に進化した。
CDを聞いた時点では、これだけの進化の可能性を、私はあっさり見落としていた。まいった狸だ
オープニングの2曲程度まではまだ落ち着いて見ることができたのだが、それ以降は一気に興奮状態となり「なんなんだ、これは」「これは奇跡だ」等とうわ言を口走り画面に釘付けとなっていた。


とにかくハンコックのアコピが、ますます凄みを増している事に驚く。
ルートに対する距離感・浮遊感のコントロールは見事としか言い様が無いほどだ。
抜群のテンション感覚は、もう、それだけで叫び声が出てしまうほど。
非常にデリケートでリリカルなタッチから、意識を破錠させるほどの攻撃的なプレイまで、とにかく鬼気迫るピアノが聞ける。


そして特出は Terri Lyne Carrington と Matthew Garrison のリズム隊だ。
私としては真面目に失神しそうになった。
ハンコック・ミュージック特有のうねるようなビートをグイグイとドライブさせていくのだが、それが決して泥臭くない。
サンプリングによるブレイク・ビーツにさえ柔軟に絡み合い、様々なグルーブを能動的にクリエイトできる技術と知性を兼ね備えたリズム・セクションである。

TLCのドラムは凄い。私はぶっとんだ。
ハンコックにして「ドラム・マスター」と言わしめた才能。
インテリジェンスとエモーション、フレキシビリティとパワー。センスとテクニック。
ドラマーに必要な全ての要素が、非常に高い次元でバランス良く融合しているのだ。
クールだ。私の中でこういう形容ができるドラマーとしては大御所ジャック・デジョネットがいるのだが、受ける印象はまるで異なるがTLCもデジョネットと並ぶクールなドラマーである。
しかも、このDVDを見終わった時点ではデジョネットを超えたと確信してしまったほどの魅力がある。
下世話な言い方をすれば、トニー・ウイリアムスにデジョネットをぶち込んだという感じなのだ。
これで、女だよ、女。
しかも、ブスじゃないんだな、これが。と言うか、ドラムを叩いている姿には女性としての色気も漂うんだから、もう何を言わんかや。
一部ボーカルも披露するのだが、高音域で一瞬音程がふらついた時に見せたキュートな表情など、かなりくるものがあった。
私は完全にミーハーと化したね。


そしてだマシュー・ギャリソンのベースは驚異だった。なんだこいつは。
わかりました降参です。無条件降伏しますから命だけは助けて下さい。お願いです。
フォデラの5弦を駆使した超絶プレイは、突然変異的ですらある。
もちろん、デニチェンの最新ソロ・アルバムとか、ジョン・マクラフリンの「The Heart of Things Band」やザウィヌル、スティーブ・コールマンといったメジャーどころのアルバムでの活躍は知っていたのだが、正直ここまでのベーシストだとは思っていなかった。
16分裏をひっかける独特のノリはジャコに通じるものがあるが、総合的なグルーブとしてはもっとファンキーである。
ベースラインだけで自然に腰が動く。
そして、右手!!
あの右手のピッキングには恐れ入った。実際に映像で見ても信じられないテクニックである。
高音域でメカニカルなソロをぶっとばす様は、もはや茫然自失、よだれが出てしまうほどだ。
当然ながら5弦ベースの特性も熟知し、フィンガーボード上の音を完璧に把握したコード・ソロまでファンキーに弾ききる。
あーあ、いやんなっちゃったなあ、もう。

この2人が有機的に作用したリズム隊だからね。
とにかく、ぶっとびます。


このバンドで繰り広げられるのは、「Future Shock」の現代版では無い。
見かけ上は確かにサンプリングやデジタル・モデリングを大胆に取り入れ、リスム・ループを使用し、尚且つ明らかにクラブ・カルチャーを意識した演出はされている。
しかしね、このDVD映像を見る限り、この演奏は明らかに「ジャズ」だ。
しかも、最先端の「ジャズ」である。
「処女航海」や「HEAD HUNTERS」が発信していたものと同等な波動を感じるのだ。
冒頭でも書いたように、だからこそ、これからの音楽はこうなるという予言と受け止めても良いだろう。
ターンテーブリストが加入していたりデジタル・オーディオをトリガーしたりする一見目新しいバンド・フォーマットであるが、冷静にアナライズすれば、音楽の構成要素としては非常にオーソドックスな組織体だ。
ベースはベースの役割、ドラムはドラム本来の意味を持ち、その上にハーモニーが乗り、ソロイストがソロを取る。
もちろんメインのハンコックはリズム・ハーモニー・ソロの間を縦横無尽に駆け抜ける。
曲によってオーディオ・ループが使用されたり、スクラッチ・ノイズがパーカッション的に空間を演出したりするが、音楽を実際に機能させているのは普通のバンド編成なのである。
そして、そのバンド・サウンドが、音楽の未来をイノベートするのだ。
新しい世界に踏み出す時の緊張感と決意、そして希望。
そこには身震いするような感動がある。

そして、広がるのだ、音楽の可能性が。
人間の感性が成長するのだ。価値観が多様化するのだ。文化が生み出されるのだ。
そして文化は英知(Wisdom)となる。
そしてハンコックがこのライブの冒頭で語るように、この英知が時間を動かす。時代を切り開く。
音楽形態として、このサイクルを牽引できるのは広義に語って「ジャズ」しか有り得ない。
というか、そもそもそういう命題を負った音楽が「ジャズ」なのだ。
だから、このDVDには正真正銘の「ジャズ」が収録されているわけだ。


アンコールで、あの「CAMELEON」の超有名なシンベ・フレーズが聞こえてきた時には、不覚ながら涙さえ出た。
そしてハンコックが立ち上がって笑顔でハンド・クラップする。63歳のオヤジが、しかし、誰も成しえない音楽の未来を切り開いている。
演奏されている音楽の質は、一般のダンス・ミュージックとは遠くかけ離れたシリアスさを秘めているにも関わらず、クラブに集った若者達が63歳のオヤジに踊らされている。
なんという奇跡だろう。
そしてこの「カメレオン」は嬉しいことに展開部まで演奏される。
ハンコックのピアノ・ソロに突入した瞬間に、全身に鳥肌が立つ感覚。頭から血の気が引く。
なんという感動だろう。なんという潔さ、なんという力強さ。
新世界に漕ぎ出す勇気と希望がみなぎっている。
バンドが燃える。身体の芯が熱く痺れてくる。


ハービー・ハンコック恐るべし。
知識や技術は(比較対象の意味はあるが)過去のものだと言い切る。
63歳になっても未知なる処女航海に船出することを選ぶ真のイノベーターだ。
マイルスがいなくても、ハンコックさえいれば大丈夫。
「ジャズ」に、いや「音楽」に未来はある。

This text was written by M.Yamaguchi. 2003/Aug.

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それでは、旧レビュー転載のオマケとして、この Future To Future のライブ映像を貼っておこう。


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