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読書の秋

Weather Report の真実

かなり以前から読もうと思っていた本を、やっと手に入れて読んでいる。

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確かに大枚5,000円を叩くだけの充実した内容で、ボリューム的も価格相応。
発行元の説明文は次の通り。

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伝説的フュージョン・グループ「ウェザー・リポート」が、実際のレコーディングで使った「楽譜スケッチ」(手書き譜など)を世界初公開する大博物誌。さらにリーダー=ジョー・ザヴィヌルの新証言と、音楽評論家・山下邦彦による精細な解説を加えることで、長い間謎に包まれていたあの極上サウンドの真髄に迫ります。
掲載される楽譜スケッチは「バードランド」「ブラック・マーケット」といった人気曲のほか、ウェザー・リポート誕生に大きく関係した「イン・ア・サイレント・ウェイ」「ファラオズ・ダンス」の自筆スコアなど合計250枚(これら楽譜を見てジャコ・パストリアスやマイルス・デイヴィスたちは演奏し、かの名演の数々が生まれたのです)。
キーボード・マガジン2005年4~12月号にて好評を博した連載が大幅に加筆・修正されて、ついに一冊の本として完成しました。

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しかし、この本は単にザヴィヌルがウェザー・リポートの為に書いた楽譜を掲載するものではない。
その楽譜に込められ、ザヴィヌルが目指した音楽のコンセプトを解き明かそうという壮大な取り組みなのである。
ジャズの、いやおよそ我々が現在耳にする音楽全体に関わる大きな謎に対する挑戦である。
そこから導き出されようとしているものは、現代音楽史に対する新しい解釈であり、音楽の本質とは?という深遠な問いである。
歴史に対する論理的な謎解き本としての醍醐味もあり、掲載された楽譜はその物証として機能する。
ザビヌルが語る恐るべきコンセプトと、驚愕の真実には、就寝前にベッドの中で読んでいたとしても鳥肌が立つ。


とにかくね、あたしなんざあ、前書きに普通に書かれた次の一説で背筋が凍る思いをしちゃうわけ。

「これらの楽譜を実際に見た人たちは、きわめて限られています。これらの楽譜を見た人たちとは、基本的に、これらの楽譜を演奏したミュージシャンたちです。たとえば<ファラオ・ダンス>の楽譜は、あのマイルス・デイビスの<ビッチェズ・ブリュー>のセッションに参加したすべてのミュージシャンたちに、ジョーの手によって配られたものです。
たとえば、<ブラック・マーケット>、<バードランド>、<キャノンボール>といった楽譜もまた、ウエイン・ショーターやジャコ・パストリアスが実際に見た楽譜であり、彼らはこのザヴィヌルの楽譜を見て演奏し、そしてあのウェザー・リポートの音楽が生まれたのです。」

そうなのだ、マイルスが、マクラフリンが、ジャコが、ビトウズが、そしてウエイン・ショーターが見て、考え、演奏した譜面なのだ。
純粋に歴史的な価値だけ考えても、これらの楽譜は人類の宝と位置づけられるだろう。
そして、その楽譜たるや、戦慄の真実が解き明かされるに十分な内容。
私も譜面書きの端くれとして、この人類の遺産ともとれる楽譜の持つ意味の重大さは身にしみて分かる。


生まれながらに絶対音感を持ち、7歳にてウイーン音楽院に奨学生として入学し、二十歳前にしてクラッシック・ピアノの巨匠とも共演できた技巧を持ちながら、ジャズに音楽の意味を発見し、しかしながら遂にはビパップと決別し、全く新しい音楽のコンセプトを創造したザヴィヌル。
この本を読み進めるうちに、ザヴィヌルの人生の変遷に伴って、彼の音楽が広がっていく様が見事に描き出される。
そしてその宇宙のような広がりが、やがてはたったひとつの方向を指し示すのだ。
その潔い決意と、純粋な意思に、油断して読んでいると涙すらこぼれそうになる。


ウェザー・リポートが存在していた昔、ザヴィヌルから直接手渡された3曲の譜面からスタートし、20年の歳月をかけて結果的に1000枚を超える楽譜を詳細に研究し、ザヴィヌル本人との長時間にわたる会話によって決定的な真実を明らかにしつつ、畏怖の念すら持って書き上げられた、執念の結晶とも言える本書。
読み物としては著者が予め立てた仮説の方向に強引に誘導する部分が鼻に付かなくも無いが、それでも、その強い探究心と、詳細な研究成果には頭が下る。(その研究の過程で、独自の楽譜の表現方法まで構築してしまうほどの集中力は、一種の狂気に近いかもしれない。)
本の腰巻に書かれた衝撃のフレーズ「ジョーの左手がジャコを作り、右手がマイルスを作った」、この本当の意味が解き放たれただけで、マイルスを軸にしてきた音楽史への視点が大きく変わることだろう。
ウェザー・リポートの恐るべき真実。
これを理解することで、晩年のザヴィヌルが目指した理想の音楽がより鮮明に浮かび上がるのだ。

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音楽とはかくも深いものなのか。
ザヴィヌルが目指したパラダイス・ミュージックの本質については、過去にも何回か考察してきたし、一部は本ブログのエントリーでも紹介した。
しかし、この本のおかげで更に深く考察できる新たな材料を手に入れた。
ザヴィヌルの音楽は、決して風化させてはいけない文化なのだと改めて実感した。
今一度、彼の音楽と正面から対峙し、音楽を、人間を、そして世界を、考えてみたい。


もし、貴方が作曲や編曲をする人ならば、この本に5,000円を出す価値は十分にあるはず。
それに、あのヘンテコなシンセの音色のパッチ・セッティングまで掲載されている部分は、けっこうマニア受けするかもしれない。
まあ、自分的には、あんな妙な音を使える曲は、たぶん書けないけどね。

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