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Stuff

タフでやさしいリズム・セクション

振り返ってみると、いろいろあった。
楽しいことばかりじゃなかったし、眠れない夜だってあった。
それでも、ここまで歩いてきた。

人を傷つけたこともある。
逃げ出したこともある。
裏切られたこともある。
負けたこともある。

だけど、朝になれば陽が昇る。
季節の風に命が宿る。

愛した人もいたし、心を許せる友人もいた。
忘れられない、夏の日もある。
今となっては全てが夢のような日々だったと思える。

そうやって生きてきたんだ。
キツイ毎日だけど、これからもそうやって生きて行く。
何か大切なことが、きっと見つかるような気がする。

タフであろう。
人にやさしくあろう。
前に進む勇気を持とう。
傷痕からだって多くを学べる。

顔を上げようぜ。
歩き出そうぜ。
まあ、その前に、一杯やろうぜ。

スタッフはそんな音楽を演奏してくれた。

Stuff


1976年のファーストアルバム「Stuff」、そして翌年の「More Stuff」。
あの時代、そこには確実に Music Magic があった。

Stuff が生み出したのは、技術力とか完成度とか芸術性とか、ましてや音楽性とかで評論家が語れる音楽じゃない。
それは、あの男たちの「生き方」なのだ。
私にとっては、それこそが本当の音楽だ。
例えばニューヨークで楽器を弾いて食っていくこと、それがどれだけ大変な事で、どれだけ苦しい日々を過ごすことなのかは想像に難しくない。
絶望、諦め、悔し涙を流した夜も数えきれないだろう。
だけど、寒空の中を彷徨い辿り着いた「ミケルズ」の扉を開ければ、いつだって夢と希望があったのだ。
誰だって Stuff のリズムが聞こえてくれば、笑顔になれる。
もう一度自分を信じようという気持になれる。


なんであんなに温かい音楽が演奏できたのだろう。
なんであんなにやさしい気持になれたのだろう。
なんであんなに力強いビートを奏でられたのだろう。
そう、Stuff には「ガッツ」があった。


海坊主のような Gordon Edwards が、ベースのネックを一振りすれば、ほら、聞こえてくるはず。
Richard Tee のグローブのような掌が叩き出す 全てを包み込むホットなハーモニー。
どこから見てもトッポいチンピラの Cornell Dupree が、パイプを燻らせながらファンキーなカッティングを刻む。
頑固一徹、寡黙な Eric Gale の不器用で無骨なフィルが入る。
Steve Gadd の鬼のようなリズムがドライブする。
彼らの生き様に憧れる、若い Chris Parker のウブなリズムがグルーブに厚みを付ける。

全米のミュージック・シーンを支え続けた、鉄壁のリズムセクションだ。
Stuff のメンツがいなかったら、アメリカン・ミュージックは成り立たなかった。
彼らは、ありとあらゆるジャンルの数えきれない楽曲で、Stuff のリズムをグルーブさせたのだ。

どんなジャンルだって、どんなコードだって、どんなリズムだって、そんなもん同じ音楽じゃねえか。
難しい理屈をこねる前に、とにかく楽しもうぜ。
オファーがあれば、なんでもやる。ダメなら遠慮なくクビにしていいぜ。
Stuff のメンツは、そんな真のバンド・マン達だった。
どんな時にも頼れる男たちだった。

More Stuff

あの頃。
(そう、私にだって「あのころ」はある。)

あの頃。
行きつけの店に、バーボンの香り、煙草の煙の向こうに古い友人の顔。
眠らない街の夜、心地よい喧噪。
様々な人生の、葛藤や悩み、夢や希望、あきらめと決意、涙と笑い。
そんなものが渦巻く時間に、どこからかスタッフのご機嫌なリズムが聞こえてくれば、それだけでハッピーな夜が始まったのだ。

これからも生きていかなくてはならない。
何もかもが一度きりの幻ならば、笑い飛ばせば良いのだ。
強くなろう、そして優しくなろう。
笑顔になろう。
ハッピーになろう。

決して一人で生きてきたのではない。

Stuffは、そういう音楽だった。


それでは、1976年の Montreux Jazz Festival での貴重なライブ映像。
Richard Tee も Eric Gale も、すでにこの世にはいない。
とにかく、時代を超える奇跡のリズムを聴きたまえ。





ま、スタッフとくれば、Steve Gadd には言及せずにはいかないだろう。
Steve Gadd という突然変異的な事件により、モダン・ドラム奏法が確立したと言っても過言ではない。
ルーディメンツをドラムキットに展開し、圧倒的な技術力と、驚異的な反応力で、ドラムという楽器をメロディ楽器に勝るとも劣らない地位に押し上げた。
Steve Gadd はドラムという楽器の意味を根底から変えたのだ。

もちろんテクニックだけで言うなら、今となってはガッドを上回るドラマーは存在する。
しかし、現在一線で活躍する全てのドラマーは、「Steve Gadd 以降」という系譜で括られてしまうのだ。
Steve Gadd が切り開いたドラムの可能性は、それほどに広い。
ガッドの出現が無ければ、現在の音楽シーンそのものの在り方が違っていたとまで言える。

私自身、ドラムという楽器の本質は、Steve Gadd によって教えられた。

同じライブより、ガッドのコンパクトなソロ部分をオマケとして貼っておきます。




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