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KORG X50 の優位性

KORG X50 の優位性についての考察

諸事情あって KORG の Music Synthsizer X50 を手に入れた。

KORG X50


自宅の MIDI コントローラーとして Alesis の Photon X25 を使っていたのだが、数か月前にいきなりモジュレーション・ホイールとピッチベンダーが壊れた。
ま、こちとら別にベンダーを駆使したリアルタイム入力もしないし、鍵盤を弾いて音が出さえすればいいやと、特に代替えも考えていなかったのだけど、最近になって時々何もしないのに意味不明な MIDI メッセージを吐き出す現象が確認された。
その為に、DAW やソフト音源の挙動がおかしくなる事態が発生しはじめたので、仕方無く新しい MIDI コントローラーを物色せざるを得なくなった次第。

Cubase 使いが MIDI コントローラを選定するとなると、今なら何も迷わず、黙って YAMAHA KX シリーズだろう。
この YAMAHA の誇る最新の MIDI コントローラーは、Cubase との親和性や、先進の AIインテリジェンス機能など、MIDIキーボード正しい進化系と言える。

でも、これ、ただの MIDI コントローラーとしては、微妙な値段。
バリバリのキーボディストならいざ知らず、私のようにステップ入力が基本制作スタイルの人間には、それだけでは音も出ないキーボードに3万円程度の投資というのは、ちょっと抵抗がある。
その値段であれば、ちょっとしたソフト音源なら買えてしまうし、中古なら音源内蔵のキーボードも買える。
まあ、今更でっかいキーボードを買うつもりもなかったので、ダラダラと結論を出さずに時間が過ぎて行った。


で、結局のところ、コントローラではない普通のシンセで、KORG の X50 を入手した。
以前のエントリーでも書いたように、昨年 Roland Juno-D LE を購入した時に、対抗となったモデルである。
Juno-D LE でも実感したのだが、今やこのクラスの廉価版シンセといえども侮れない実力を持っている。
各モデルともに軽量・低価格でありながら、5年前のトップ・モデルと同等の機能とサウンドを備えているわけで。
KORG X50 も、4.7kg という軽量、定価で75,000円近傍、現在の実売価格でも55,000円程度でありながら、ライブでもスタジオでも十分に対応できる能力で、今だにベストセラーになっている現行モデルだ。


で、これが YAMAHA の KX49 と同等の値段で手に入った。
私としては、同等の出費で音も出ない MIDI 鍵盤を買うなら、こっちを買うのが当然。
実は KORG が昨年の一時期だけ販売した X50の迷彩カラーバージョンというのがあって、そのセンスの無いカラーリングが圧倒的な不評を買ったわけだが、これが出物の叩き売りで手に入ったわけね。
そもそもの目的が MIDI 入力用のコントローラーだし、内蔵音源も自宅での録音用という限定した用途なので、見た目は妥協しても良いかと判断した。
私の長い人生の中で、迷彩柄の品物を買うという経験は初めて。
そういうライフスタイルや価値観は無いのだが、この際コスト優先ということで。

KORG X50 CF



で、Juno-D LE のレビューをしたからには、対抗機種の X50 もレビューしておかないと、片手落ちというものだろう。
なんとなく Juno-D との比較という観点で以下にまとめてみる。


先ずは、軽い。設置が楽、持ち運びが楽。
私は Juno-D を知っているから、この軽さに驚く事は無かったが、あらためて考えてみれば驚異的な重量。
ギターを持つ感覚で片手で移動できる気軽さは、私のようなキーボーディスト以外の人間がキーボードに対峙する時のコンプレックスにも似た精神的プレッシャーが少なくてすむ。

音は、伝統的な KORG のサウンド。
M1 から始まり Trinity、Triton と続く伝統の系譜をしっかり感じる。
全て実際に所有していた私が感じるのだから確かだ。
先進的なデュアル・アルペジエイター機能も、なんとなく伝説の WaveStation も思い起こさせる。


言葉で説明するのは難しいけれど、この手のデジタル楽器にしてもやはりメーカーの特徴はあって、Roland は Roland の出音があるし、YAMAHA は YAMAHA の個性があり、KORG には KORG の雰囲気があるのだ。
敢えて Korg のサウンドを好意的に形容するなら、「厚くリッチ」ということになるか。

PCM波形依存のデジタル・シンセが少なからず持つ「サンプラー的方向性」が、他社と比較して少ないことも KORG の特徴かもしれない。
あくまでも「シンセサイザー」という価値観に重きを置いて来たのが KORG という会社の一般的なイメージかもしれない。


その意味では、この X50 も同様だ。
Juno-D と比較して X50 のサウンドには、個性があり主張がある。
Juno-D は 音楽制作の現場やライブ・ステージで即戦力となる癖の無いサウンドを網羅した優等生的なキーボードである。
もちろんトリッキーなパッチも装備しているが、もともとの PCM 波形が生楽器を素直にサンプリングしてあって、そのまま出力して使うことが前提となっているような印象を受ける。
例えばピアノの音が必要になった場合なら、何も考えずにピアノのプリセットを選んで鍵盤を押さえれば、ほとんどは違和感の無いサウンドが出てくれるわけ。
対して X50 は、PCM波形を加工して使う事が前提というスタンスを感じるのだ。


ジャジイなバラードを弾くつもりで、いきなり有名な M1 ピアノなどが出てしまったら、良いか悪いかは別として戸惑う事は間違いない。
だいたい、そもそも M1ピアノに生ピアノのリアルさを求める人間はいないだろう。
M1ピアノはピアノではなく、確立された「M1ピアノ」という音色なのだ。
例えとしては分かりにくいが、これ、シンセサイザーの立ち位置を考える時には実は重要なこと。

例えばデジタル・キーボードの新しい時代を切り開いた YAMAHA の名機 DX7。
その煌びやかなエレピ・サウンドや、豊かな高次倍音がベロシティで変化するベル系の音色、今だにクラブシーンでは必要不可欠な硬質のベース音等は、1台のデジタル・キーボードの特徴的な音色というだけでなく、その音色そのものが新しい楽器として認知されている。
シンセサイザーとしての DX7 が時代遅れになった今でも、DX エレピという音色には唯一無二の DX エレピというステイタスがあり、DX 以降のほとんどのシンセサイザーがその模倣音色をプリセットに持っている。
KORG M1 のピアノやブラス・サウンドには、それと同等の確立された個性があったわけ。
(ちなみに、あの時代の DX7、M1、Roland D50 という御三家には、全てそのような独自性が備わっていた。)


その M1 の系譜、KORG の主張を X50 に感じる。
だから、X50 は、誰でもが気軽に弾けるキーボードとは言い難い。
シーンも選ぶ。
例えば、趣味の楽器演奏としてリビングルームに1台おいておくキーボードとして X50 はあり得ない。
初々しい若妻や、可憐な女の子が、日差しが溢れるモダンなリビングで鍵盤を練習する図には、(もちろん YAMAHA の GranTouch かクラビノーバが BEST だろうが)、あえて比較したら Juno-D が相応しい。

Juno-D は、とにかくシーンを選ばず、どのような状況でも即戦力として対応できる素晴らしいキーボードである。
ただ、シンセサイザーとしての醍醐味や面白みを感じたいのなら、Juno-D より X50 を選択すべきだ。
X50 には、弾いているだけでイマジネーションが刺激される興奮がある。
もちろん、内蔵 ROM から PCM 波形を読み出してフィルター等で加工するという基本的な設計は Juno-D も X50 も同じ。
この仕組みを「シンセサイザー」と呼ぶには抵抗がある人も少なくないだろう。
だけど、X50 は、「サンプラー」ではなく「シンセサイザー」を感じるのだ。
常にライブに持ち出すのなら、無難な Juno-D の使い勝手が上回るだろうが、ある程度の知識を前提として自宅に設置してじっくりと音楽制作をする場合には、X50 の自由度が勝る。

まあ、このように Juno-D と X50 では、潜在的な方向性が異なるわけで、単純な比較をすることはできないし、その意味も無い。
ただ、1点だけ X50 の明らかな優位性としては、付属の「X50 Plugin Editor」の存在だろう。

X50 Plugin Editor


これ、ひょっとしたら画期的かもしれない。
DAW 上から VST Plugin として X50 をコントロールできるというコンセプトが斬新。
ある意味、ハードウエア・シンセサイザーの新しい可能性を示したと言えるかもしれない。

「Editor」と名が付いているから、当然ながら X50 のパラメータを操作でき、パソコン上でパッチの保存も可能だ。
これだけの機能を比較しても Juno-D の Editor や Libraian とは雲泥の差。
X50 の 全ての豊富なパラメータを洗練されたインターフェイスから直感的に操作できる。
エディット目的でなくても、X50 の音色の選択とかの日常的な操作すら、この Plugin Editor から作業したくなるほど使い勝手が良い。
これを立ち上げてしまえば、X50 本体のボタン類には全く触れなくても全ての事ができる。
KORG にして、この機能に特化した「Micro X」という製品を出してしまったほど。
Micro X の内部は、基本的にはX50と全く同じだが、鍵盤を少なくしてよりDAW上でのコントロールと連携にターゲットを絞った製品。

Korg_Micro X



とにかくだ、「X50 Pluguin Editor」によって X50 を DAW 上で通常のプラグイン・インストルメントと全く同じ方法でを扱うことができる利便性は素晴らしい。
当然ながら DAW のプロジェクト毎にトータルリコールもできる。
X50 にオーディオ・インターフェイス機能は無いので、オーディオ信号は別途インターフェイスからの入力が必要になるが、その他の部分ではインストールされているソフト音源と同様に扱えるのだ。
しかも、コンピューターに対する負荷を考慮する必要が無い。
この機能の存在は X50 の圧倒的な優位性だろう。

X50 をマルチモードで使えば、最大16トラックのソフト音源として機能する。
X50 はステレオ・アウトの他に2系統の独立アウトを持っているので、DAW上への入力の自由度もソコソコある。
オーディオインターフェイスまで装備されていれば、ソフト音源と区別しないで更に直感的に使えるのだが、5万円程度の価格でそこまで望むのは酷。


確かに「X50 Pluguin Editor」 は実に良くできている。
VST プラグインとして立ち上げ時に、X50 本体が自動的に「Local Off」になるなんざ、ちょっとしたことだが実に気が利いていて感動した。
他のシンセだと、いちいちグローバル・パラメータで鍵盤を切り離すという作業が必要だからね。


私としては、この「X50 Pluguin Editor」の存在だけで、Juno-D ではなく X50 に軍配を上げる。
いつまでも弾いていたいと思う生ピアノの音色とか、ハリのあるブラスとか、バッキングで使える癖のないストリングスとか、ライブでの操作性とか、とにかく現場対応型の操作性は Juno-D が勝る。
だが、シンセサイザーとして、そこはかとなく漂う先進性は X50 の勝利だ。
私はそこに魅かれるのだ。


付け加えるなら X50 も内部のソフトウエアがバージョン・アップして、テンキーに音色を割り当てて一発で呼び出せるようになった。(このアップデータは KORG の WEB サイトからダウンロードできる。)
明らかに Juno-D を意識したアップデートだが、これによってライブでの使い勝手も上がったことは事実。
確かに、それだけの為にライブにパソコンを持ち込んで「X50 Pluguin Editor」を立ち上げておくわけにもいかないし、本体の操作でプリセットの音色ひとつ呼び出すのも、Juno-D と比べたらちょっと煩雑だったからね。


そんなわけで、私としては X50 には十分に満足している。
コスト優先とはいえ自室に迷彩柄のキーボードが鎮座しているという情景については多少の抵抗もあったが、人間というのは知らず知らずのうちに環境に順応する。慣れというやつだ。
ただ、笑ったのは、その迷彩柄故に、本体のボタンまでカモフラージュされてしまうこと。
ボタンやノブがどこに付いているか瞬間的に見分けがつかず、ますます本体操作がしずらくなっている。
印刷されている文字など、ほとんど判別できないほど。
KORG も、何考えちゃったんだかなー。
これから X50 の購入を検討される人は、この点はしっかり考慮する必要があるだろう。

最後に、かなり古い動画だが NAMM 2006 での KORG のブースでのデモを貼っておく。
つーか、これ Winter NAMM だから、X50 って丸2年も経って、まだ現役でいるんだなあ。
内蔵のアルペジエーターでドラムやベースのバッキングもリアルタイムに鳴らしているツボを心得たデモ演奏が聞ける。




しかし、最近、いろんなものが壊れる。
一昨日は、ついに PowerMac G5 が逝ってしまった。
その翌日に、いきなり、Mac Pro を含む Apple の新モデルが発表されたという、なんとも天啓のような状況。
この不景気に、どうする?、俺。

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コメント

最近になってシンセサイザーに興味を抱きました。
しばらく前からmidiキーボードの購入を考えていましたが、
楽器屋でシンセサイザーを触ってびっくりしました。
直感的にさまざまな音が楽しめる。しかも今は良いものが10万以下で買える。
自分なりに色々調べ、midiキーボードではなくシンセサイザーの購入を決断しました。
そこでたどり着いたのが、juno di、x50、microstation
そのためこの記事はとても参考になりました。しかしこの記事から、長い月日が経過していますね。
そこで、参考までに、今買うならx50よりおすすめのシンセサイザーがありのであれば紹介していただけないでしょうか。 
突然の書き込みすいません。勝手ながら返信をお待ちしております。

Otd 様

当方のつたないレビューが多少なりとも参考になれば幸いです。
この記事を書いてから1年以上が経過し、すでに X50 も手元には無く、現在のキーボードは M50 と R3 に置き換わっています。
M50 はともかくとして、R3 は今年リリースされた Roland SH-01 GAIA に存在を脅かされている状況です。
今更ながら自分の移り気な性格に辟易していますが、もともとキーボーディストでは無いので、流行もので楽しむのも一興かと諦めています。

検索でやって来ましたが、
大変参考になるレビューでした。
ありがとうございます。

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