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KORG R3 伝統の系譜

ついに自分の頭の中で何かが外れたんだと思う。
KORG の「R3」入手。
後先を考えず廉価版キーボードを買う男、ここに極まった感がある。

KORG R3


この R3 は 2007 NAMM SHOW で発表されたアナログ・モデリング・シンセサイザーで、定価が7万4970円という廉価モデル。
重量2.8kgという軽量ボディながら、37標準鍵盤搭載、2ティンバー、8ボイスという、それなりに使えるスペック。
音源部にはこのカテゴリーでの KORG のフラグシップ・モデル「RADIAS」で絶賛を受けている MMT(Multiple Modeling Technology)を採用。
MS-2000 から引き継がれている MOD シーケンス機能も搭載。
極めつけはフォルマント・モーション機能付き16バンドのボコーダー。
いやはや、今更ながら IT テクノロジーの進化には恐れ入る。


当方、俗に言う「シンセオタク」ではありません。
まあ、昨今の音楽製作にはサンプラーやシンセが必須というだけで、専門はギター弾きだし。
サンプラーはともかくも、シンセの音作りに凝った作業をするなら、その時間で作曲とかしたいし。
アナログでもデジタルでも、シンセサイザーを使う時にはプリセット音色を選び、カットオフとか EG とかを若干エディットする程度でお茶を濁すタイプ。

PCM 全盛期の今となっては、伝統的なアナログ・シンセはオールマイティさに欠ける。
ステージに1台だけキーボードを持ち込むとしたら、現実的にアナログ・シンセでは有り得ない。
例えば当方も先日入手した「KORG M50」とかのデジタル・シンセは、あらゆる状況で即戦力となる。
アコピやエレピからリアルな管楽器や弦楽器まで幅広い音色をカバーし、もちろん伝統的なシンセ系音色にも不自由しない。
それに対して、一般的なアナログ・シンセは、当然ながらアナログ・シンセの音色しか出せないわけで。
特に伝統的な減算系シンセは、限られたオシレーター波形を「削って」作られるサウンドなわけで、その進化には初めから「限界」を持っている。


KORG RADIAS


KORG RADIAS

もちろんオシレーターの種類や、フィルターの切れ具合、モジュレーションのルーティングの自由度やらで、アナログ・シンセにも個性はある。
機器固有の艶や太さと、そして「抜け」といった、無視できない独自性もある。
確かに、Prophet-5 でイメージする広がりのあるパッドや、Oberheim Matrix12 の特徴的な分厚いブラス、ARP 2600 のシャープなディケイ音、Mini Moog の地を這うようなベースなど、全てが唯一無二だ。
それは、実際にそのサウンドを聞けば誰しもが実感できてしまうところに、理屈を超えた音楽の不思議がある。
そもそも「楽器」とは、そういうものだ。
アナログ・シンセの潜在的に持つ様々な制約を補って余りあるサウンドの深みは、音楽そのものの屋台骨を支える力を持っていた。
例えば Oberheim を代表するシンセ・ブラスを聞いたら、誰しもが思わず Van Halen の「Jamp」を弾いてしまうだろう。
Lyle Mays のリリースでベンドダウンする笛の音は、Pat Metheny Group 独特の浮遊感には無くてはならない音色だった。
スティーブ・ポーカロが YAMAHA CS80 で作った所謂「TOTO ホーン」は、楽曲アレンジの新しいアプローチさえ切り開いた音色だ。
お里が知れるが Keith Emerson が Moog の突き刺すような音色でリードを取った瞬間に、明らかに Rock の時代が変わったわけだし。
つまりアナログ・シンセの音色は、ある側面で音楽の歴史を作ってきたという事実は否定できない。
アナログ・シンセの歴史的な名機と言われる機種には、ツールではなく「楽器」としてのアイデンティティがあった。


ま、そんな大上段の話しをしなくても、アナログ・シンセのコンセプトは、今の時代でもサウンド・プログラミングの基本。
オシレータをフィルターで加工し、EG や LFO でモジュレートするというシンセサイズの基本的な仕組みを学ぶには、アナログ・シンセが分かりやすい。
自分でイメージした音色を直感的な操作で作り出せるというのは、遊びと考えてもけっこう面白いわけで。
巷で言われる「シンセの醍醐味はアナログ・シンセでツマミをゴリゴリ回す」って気持ちも多少は理解できる。


当然ながら、アナログ・シンセもピンキリだ。
今では伝説となった名機はともかく、現行機種ですら新車が買える価格帯から「R3」のような廉価モデルまで様々だ。
まあ「R3」もそうだけど、現在の主流はデジタル・テクノロジーでアナログ回路の振る舞いをモデリングした、バーチャル・アナログ・シンセサイザー。
このモデリング技術の進化が、低価格化の鍵。
なんせ、基本はソフトウエアだから。
純粋にアナログ・シンセを語る場合、モデリングを善しとするかは意見の分かれるところだろうが、当方は全くこだわりは無い。
だいたい、本物が欲しければビンテージ市場で本物を手に入れれば良いわけだし、当方にはその価値観が無いというだけ。
モデリングはアナログでは無いと言われれば確かにその通りだが、今更数百万円出してメンテナンスに気を使う寿命の尽きた機器を買う事に意義を見い出せない。
だって、当方ギタリストだから。


で、「R3」は、小型軽量でありながら、Radius 直系の音源システムを採用したというだけあって、そこそこの音が出る。
値段相応の部分もあることは事実だが、今や「値段相応」というレベルが恐ろしく高い領域に達している時代だ。
KORG 特有の艶と太さに加え、今風なキラビやかさも兼ね備えているのが嬉しい。
その割り切った操作性でアナログ・シンセのとっつきにくさを払拭しながらも、実は減算系シンセのパラメーター群を網羅して真面目に構築されている。
基本的には1978年の MS-20 から2000年の MS-2000 へと受け継がれた伝統の系譜上にある。
そう言えば自分でも MS-2000 とか持っていた事を思い出して、我ながら驚いた。
ギタリストにしたら、キーボード遍歴はけっこう多彩なのかもしれないなあ。


KORG MS2000


KORG MS2000



KORG MS20

KORG MS20


前述したように「R3」はアナログ・シンセの基本的な機能から逸脱せず、その伝統を正しく引き継いでいるという意味では逆に新鮮さは感じられないかもしれない。
ただ、出てくる音には、どことなくモダンな趣があることも事実。
それを「軽さ」と表現してしまうにはかなりの語弊があるが、ビンテージなアナログ・シンセが醸し出す世界観と比較すべきでは無い。
もちろん、遜色なく使える音は出るわけだし。
本体パネルはノブやボタンが光って奇麗だし、バックライト付きLCDの表示内容がインテリジェントに変化したりして、けっこうお洒落。

KORG R3 Front




パラメータへのアクセスは、作業性もしっかり検討されているという意図は判るが、いかんせんノブが4つというのは直感性に欠ける。
しかしながら、このノブも予めアサインされたパラメータを音楽的に変化させるリアルタイム・コントローラーと捉えれば、潔くて使い勝手が良い。
鍵盤は、この価格で文句を付けてはいけない。
ピアノじゃないんだし、MS-20 の鍵盤なんて、もっと「スイッチ」的だったじゃないの。
そう言えば30年以上も前に、友人の天野君を騙して MS-10 を買わせたっけ。
Tokyo Fusion Night が初めて録音で使用したシンセ音は MS-10 だったのだ。

最近のシンセでは当たり前だけど、「R3」も専用のエディタが用意されており PC 上で全パラメータを俯瞰しながらエディットができる。
これはやはり便利。
特に本体上のツマミが少ない「R3」のようなデザインの場合、楽曲にあわせて細かな音色の補正をする作業には不可欠だ。

KORG R3 Editor



この「R3」、ボコーダーが良いのだ。
実はこのボコーダーが欲しくて「R3」の購入に踏み切った。
かなり切れの良いフィルターを使っている印象で、倍音の多いキャリア波形を選択してやると、発音した言葉が明瞭に聞き取れる。
当方、ボコーダーを所有するのは初めての経験。
我々の年代だと坂本龍一が YMO で「トキオ」と喋ったというのがボコーダーのインパクトとして一般的かもしれないが、どっこい当方の YMO は渡辺香津美がギターを弾きまくったライブ・パフォーマンスの衝撃の方が印象的だ。

当方の音楽遍歴的にボコーダーといえば Herbie Hancock だろう。
ハンコックが1977年に Zenhaizer のボコーダーを大フィチュアーしたアルバム「Sunlight」には驚いた。
だって、あのハンコックがポップ・チューンを「歌って」しまったのだから。
1曲目の「I Thought It Was You」でいきなり聞ける伸びやかなボコーダー・サウンドと、ベンドやモジュレーション・ホイールでの絶妙なニュアンスの付け方は、ボコーダー史上の名演中の名演。
この翌年の日本ツアー中に録音された2枚のアルバム、笠井紀美子の「Butterfly」と Hrebie Hancock 名義でダイレクト・カット録音(スタジオ1発録りでそのままレコード盤に刻み付ける手法)された「Directstep」もボコーダーだけで作ったようなアルバムだった。
特に「Directstep」での「I Thought It Was You」は15分を超える熱演で、中盤から延々と10分以上に渡って繰り広げられるファンキーなリフ・バトルもメインはボコーダーであり、この斬新なアプローチにもシビれたね。
Alphonse Mouzon と Paul Jackson という粘りまくるドラムとベース、Bill Summers のパーカッション、Ray Obiedo の切れの良いリズム・ギター!
この怒濤のグルーブ感は今聞いてもぶっ飛びますわ。

さて、この「R3」、今後のレコーディングでは PAD系音色で活躍させたい。
楽曲にふくよかな厚みを持たせたい場合に、フロントを邪魔せずにしっかりと存在感を醸し出せる音色はアナログ・シンセの独壇場だわな。




それでは、R3 発売当時の KORG USA によるオフィシャル・デモ動画を掲載しておく。

そして、オマケとして、Herbie Hancock がアルバム「Sunlight」のプロモーション用に、1人でボコーダーを演奏している(明らかにアテレコだが)、超レアな動画も貼っておきますわ。
プロモーション・ビデオ等という文化が無い頃の映像なのでどこまでが演出なのか不明だが、このチープな地味さ加減とハンコックの微妙な勘違い感がたまりません。

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