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Carmen McRae [I'm Coming Home Again] 深く豊潤な味わい

Carmen McRae [I'm Coming Home Again]

Catalog No.: ABCJ-258
Format: CD
Number of discs: 2
Release Date: 2003/04
Original Release Date:1981/02
Producer: Vic Chirumbolo

I'm Come Home Again Original Jacket

すみません。これはすっごくマニアックなアルバム。
1981年のオリジナル盤発売当時、都内の輸入レコード店勤務だった天野君が購入した2枚組のオリジナル LP が、今でも当方の自宅にある。

以前から CD でも欲しいと思っていたのだが、先日とうとう購入に踏み切った。
実は、このアルバムの CD はいくつかの種類が出ていて、よく調べないと失敗する。

オリジナルのアナログ・レコードが2枚組になってしまった最大の要因は、 あの Ralph MacDonald / William Salter 作のキラー・チューン「Mr. Magic」が2テイク収録された事。
いずれのテイクも甲乙つけ難い出来だったからという、大御所ならではの単純な理由らしいが、しかし、この2テイクの「Mr. Magic」を軸に流れる豊潤な時間には筆舌に尽くしがたい味わいがあった。
琥珀色にたゆたうビンテージ・ウイスキーのような、まろやかな深みとコクがあったのだ。
実は、CD 化にあたって、この「Mr. Magic」を1テイクに切り捨てたバージョンもあるので注意が必要。
それでは、このアルバム全体を流れる至高の時間が台無しになってしまう。



現時点では、これがオリジナル LP に忠実な収録内容(ジャケット・デザインは安っぽく変更されているが)。


I'm Come Home Again Complete CD

Absord Music Japan が2003年に24ビット・デジタル・リマスターで発売したバージョンで、Amazon でも購入できる。
けっこう入手困難っぽいので、興味のある人は、お早めに。


しかし、このアルバム、いいっすわ。
もうね、究極のリラクゼーション。
Billy Joel や Carole Bayer Sager などのコンテンポラリーな楽曲を、肩の力を抜いた自然体で聞かせる。
Jazz や Blues の伝統や様式に縛られない、自由奔放でしなやかな感性。

もちろん、Ella Fitzgerald、Sarah Vaughan と共に黒人3大女性ジャズ・ボーカリストに数えられる実力派だ。
つまり大物中の大物、日本ならさしずめ「美空ひばり」的存在か。
その圧倒的な表現力の前では、そこらへんのジャズ・ボーカリストは、すべてヒヨッコ扱いせねばらない。
人生の喜怒哀楽を全て包み込み、ハハハっと笑い飛ばす圧倒的な貫録。
でもね、それでいて時に少女のように若々しくあどけない一面を感じさせるのだから恐れ入る。
本作のような挑戦も、何の力みも無く軽やかにこなす。

レコーディングは1978年の11月から12月、この時代にこのメンツ。

Hank Crawford: Alto Saxphone
Freddie Hubbard: Trumpet, Flugelhorn
Glover Washington Jr. : Soprano Saxphone
Hubert Laws: Flute, Piccolo
Cornell Dupree: Electric Guitar
Jorge Dalto: Piano
Mario E. Sprouse: Rhodes Piano
Errol "Crusher" Bennett: Percussion
Buster Williams: Electric Bass
Chris Parker: Drums


このそうそうたるミュージシャン達に加え、曲によってストリングス・セクションやホーン・セクション、更にはコーラスがフィーチュアーされる。
なんと豪華な。
しかも、単に知名度だけのキャッチーさを狙ったのでは無く、本物の職人を揃えた渋すぎるメンツだ。
この人たちが、納得行くまで時間をかけ、しっかりと自分の仕事をした音楽だ。
悪い訳がない。
あくまでもリラックスしたサウンドの中に、研ぎ澄まされたプロの緊張感も感じる。
この雰囲気は駆け出しの小僧っこには出せません。
こいつら、確かに修羅場くぐってるぜ。

もうね、五臓六腑に染入るんだな、その贅沢な味わいの酔いが。
聴く者を包み込むように優しく、温かく、しかし力強い Carmen McRae の歌声。
「50歳程度のヒヨッコが人生を語るなよ。とりあえずやっとけ。」という有りがたい気分になれる。
過ぎた時間を全て愛そうと思える。

Buster Williams のベースにニューヨークの夜がスイングする。
Jorge Dalto が、まるで淡い恋心のようなピアノを乗せる。
Cornell Dupree が燻し銀のギターを弾き、Hank Crawford が粋なメロディを紡ぐ。
こんな音楽が聞けるのなら、人生、悪くないぜ。


加えて、前述したが、2つの「Mr. Magic」を軸に構成された選曲も最高なのだ。

-- Disc 1 --
1. I'm Coming Home Again
2. Burst in With the Dawn
3. I Need You in My Life
4. Come in from the Rain
5. I Won't Last a Day Without You
6. (Won't Cha) Stay with Me
7. Mister Magic (Take 1)
-- Disc 2 --
8. Everything Must Change
9. Sweet Alibis
10. Masquerade Is Over
11. I'd Rather Leave While I'm in Love
12. Mister Magic (Take 2)
13. New York State of Mind


特に「I'm Coming Home Again」「Come in from the Rain 」「Sweet Alibis」等の Carole Bayer Sager のナンバーは、あまたのカバーの中でも最高傑作と言えよう。

ラス前の「Mr. Magic」は 本家 Glover Washington Jr. や Hubert Laws のソロが絡む14分を超える演奏。
これ、いいわー。
なんていうかね、このゆったりとしていて力強く、派手ではないけど熱くグルーブするリズム。
至福の時間。
そして、長い静寂の後に Billy Joel の「New York State of Mind」で感動的に締めくくる。
とにかくアルバム全体を、まるで良質なコンサートのように一気に聞けてしまう。
そして素晴らしい余韻が残る。


新進気鋭のレーベルとして期待された「Versatile Records」設立後の代表作として企画され、贅沢すぎるメンバーを集めて、大物中の大物歌手が作りたいように作ったアルバムだ。
しかし、このアルバムに使われた莫大な経費の為に、「Versatile Records」は初っ端から財政難に苦しむ。
そして「Versatile Records」は、満足にアルバムもリリースできないまま、3年足らずで倒産してしまう。
たぶん Carmen McRae は、そんな事すらガハハと笑い飛ばしたはずだ。
すべてのミュージシャン達が、プロとしてのプライドを賭けて、高額なギャラに見合うだけの仕事をしたのだ。
その制作経費でレーベルを潰したアルバムなんて、そうめったにあるものじゃない。
この「I'm Coming Home Again」は、それに値するアルバムなのだ。

I'm Come Home Again



余談だが、このメンツであれば、普通ならドラムは Steve Gadd だろう。
それが、何故か Chris Parker。
この時期の Steve Gadd の殺人的な多忙さから考えると、本アルバムの贅沢に時間をかけたレコーディングに対してスケジュール調整ができなかったのかもしれない。
でもね、そこが面白い。
このメンバーの中で、どんな気持ちで Chris Parker がドラムを叩いたのか。
Steve Gadd に対する素直な憧れとか、夢とか、情熱とか、不安とか。
それを考えるとシビレます。
もちろん「Steve Gadd であればこう叩く」的なドラムを叩くのだが、そこに Chris Parker の全身全霊を込めた気迫を感じて鳥肌が立ちます。


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コメント

はじめまして。恐縮ですが、このアルバムの件で伺いたいことがあります。ご記述では『1980年発売で、Varsatile Recoords』さらには『このVersatileは3年後に倒産』となっております。現時点でネットでいろいろと調べますと、このアルバムは1978か1979年にリリース、その時のレーベルが Buddah Recordsとあります。あるサイトには Licenced Versatileともあります。そのあたりの関係など時系列でわかるでしょうか。真のオリジナルを知りたいです。また、そのジャケも分かりましたら・・・ご教授頂ければ幸いです。

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