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Michael Jackson [This Is It]

Michael Jackson [This Is It]

This Is It DVD

Actors: Michael Jackson
Directors: Kenny Ortega
Producers: Kenny Ortega, Randy Phillips, Paul Gongaware, John Branca, John McClain
Format: Widescreen, Color, NTSC, Subtitled, DVD
Number of discs: 2
Studio: Sony Pictures


Michael Jackson の衝撃的な死から既に半年以上の月日が経過した。
その幻のラスト・コンサートのリハーサル風景を編集し、今や1家に1枚の感がある映像メディア作品「This Is It」について触れておく。

この映像は、日本国内でもいくつかのバージョンが発売されている。
コレクターズ・エディション(DVD1枚)、デラックス・エディション(DVD2枚組)、メモリアル・DVDボックス(デラックス・エディションにTシャツやブックレットが同梱されたもの)、そしてBlu-Ray版(デラックス・エディションに過去のショート・フィルム等の特典映像を収録し、ブックレットを同梱したもの)。
よって基本的にはDVD2枚組のデラックス・エディションを押さえておけば問題無い。

This Is It Official Trailer, 2009

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この DVD をはじめに見た時は、思ったとおり見事に泣いてしまった。
その後、何回か繰り返して見たが、やはり今だにどこかで涙が出てくる瞬間がある。
当方、これといって熱心なマイケル・ジャクソン・ファンでは無いのだが、音楽とかダンスとかのエンターテイメントを創造する世界で常に指針であり続けようとした真摯な姿には胸を打たれる。

それに加えて、映像の中にバンドやダンサー達の命の炎が見えるのだ。
多少なりともこの世界を知っていると、彼らの気持ちが痛いほど伝わってくる。
私は、そこに打たれた。

彼らは、このツアーのリハーサルから、既に人生を変えるほどの体験をしている。
自分の全てを賭けられる課題、ひたむきにそれに取組むしか無い状況。
既に後戻りはできない、どんなに辛くても弱音は吐けない。
夢に手が届く場所、自身の存在を賭ける事に値する場所がすぐそこに見えている。
たぶん、誰だってこれをやり遂げる為には「死んでも良い」と思うことだろう。
その時、人は輝く宝石のように純粋になる。

日常から逸脱した夢のような時間の中で、自分が音を立てて成長していくのが判る。
それは身震いするような興奮だろう。
そんな光景を、この映像で目の当たりにできる。
これには感動せざるを得ない。


当方にとっての Michael Jackson 体験は 1979年夏にリリースされた「Off The Wall」に遡る。
ソウル、R&B、ファンク、所謂モータウン・サウンドを源流にしたブラック・ミュージックの究極の完成形と言っても良い桁外れのクオリティ。
どの曲も素晴らしく、キャッチーでありながらも新鮮。
名将 Quincy Jones のもと、当時の最高のミュージシャン達と才能に溢れた作曲家を起用し、新たな次元に向けて鮮烈なステップを踏んだアルバムであった。


Off The Wall


そして、1982年の「Thriller」から1987年の「BAD」まで、1980年代は正に Quincy Jones と Michael Jackson の時代だった。
この2枚のアルバムは、それまでの音楽業界の全ての常識を覆したと言っても過言ではないだろう。
もちろん、たまたまそういう時代だったのかもしれない。
そこに偶然にも Quincy Jones と Michael Jackson が居合わせただけなのかもしれない。
しかし、その時代や価値観の大きく急激な変化を、自らの生き方や表現で具現化し世界に示すことができる人間は限られている。
そこにそういう人間が必要だった。
「This Is It」の中で、ドラマーの Jonathan Moffett が静かに語るように、神は数百年に1度そういう人間を作るのかもしれない。
そして、その天才と称される人間を通して、我々は時代の意志を、時代のあるべき姿を「理解」するのだ。

「数百年に1人、神は偉大な人間を作る。
マイケルがその人だ。
人々を啓蒙し、あるべき道を示す存在。
みんなのやる気を喚起し1つにする人物。
彼は世界中に愛を広めるための神からの贈り物だった。」
:Jonathan Moffett


当方はその後の Teddy Riley や Jam & Lewis と組み始めてからの Michael Jackson とは疎遠になってしまった。
所謂 New Jack Swing と呼ばれる Hip Hop よりの打ち込みサウンドと、曲の単調さが、当方の好みから微妙にズレたことが理由だろう。
正直、マイケルの役割は終わったのかもしれない、と思う事もあった。
それでも、1992年の「Dangerous Tour」、1996年の「HIStory Tour」等の映像を見るたびに、その圧倒的な情熱を感じられたし、エンターテイメントの質の高さに感心したものだ。

Beat It : Live In Bucharest The Dangerous Tour 1993

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見よ、マイケルの、キレの良さ。 Jeff Beck のツアー・メンバーにもなった、超絶変態タッピング女ギタリスト、Jennifer Batten のド派手な演出!


そこへ、突然の訃報。
唐突に、あの時代が終わった。

「This Is It」ツアーが実現していたら、新しい時代のプロローグになりえたのだろうか?
いみじくもマイケル自身がツアーの発表会見で語ったように、これはラスト・コンサートだったのだ。
時代を「あるべき姿に導いた」マイケルの、その時代の終焉に対する壮大なカーテン・コールになるはずだった。
それがどんな意味を持ったのか、今となっては永遠の謎だ。

2009年7月7日、「This Is It」ツアーのリハーサルを行なっていたロサンゼルスのステイプルズ・センターで追悼式が開かれた。
遺族や親交のあったミュージシャン、抽選で選ばれたファン等2万人が参列。
Smokey Robinson や Lionel Richie といった重鎮達に混じり、「This Is It ツアー」のリハーサルをともにしたバンドのメンバー達、コーラス隊、ダンサー達がステージで歌う光景は胸を打つ。
Michael Jackson は、その時代の幕を自身の死で降ろしたのだ。


Michael Jackson Memorial : We Are The World / Heal The World

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しかしながら、「This Is It」を見て感じるのは、流石に驚くべき高次元で安定したバンドであるということ。

たとえ Michael Jackson と言えども、長丁場のツアーにファースト・コールのミュージシャンを拘束できないことは事実。
その意味では、自身のリーダー作を中心に活動しているような有名ミュージシャンはブッキングされていない。
話題の Orianthi であっても、自分のそれまでのキャリアに加え遥か将来まで秤にかけても、Michael Jackson のツアー・メンバーであることのほうが十分に重い。

もちろんそうは言っても、スタジオ系のサポート・ミュージシャンとしては、Jonathan Moffett や Alex Al、そして Bashiri Johnson 等、数々のヒットアルバムに少なからずクレジットを見かける実力者揃いであることは確か。
Michael Bearden にしても、スティングやホイットニー・ヒューストン、サンタナ等の大物を手掛けてきた。
最近ではオバマ第44代米国大統領の就任式に先駆けリンカーン記念館で開催された豪華スターによる「We Are One」コンサートでも絶妙の仕切りをしている。


とにかく、このツアー・バンドが素晴らしい。
正にアメリカ音楽業界の層の厚さを見せつけられる。

Keyboards:Michael Bearden
Guitar:Orianthi Panagaris
Guitar:Tommy Organ
Bass, Synth-Bass:Alex Al
Drums:Jonathan Moffett
Percussion:Bashiri Johnson
Keyboards, Sax:Mo Pleasure
Chorus:Dorian Holley、Judith Hill、Darryl Phinnessee、Ken Stacey


寸分の狂いも無いとは、こういうことを言うのだろう。
その完成度には唖然とする。
リハーサルの中で日々進化するステージ・パフォーマンスに合わせて、「そこを合わせるか!」「ここでキメるか!」という細かいシカケが満載。
Michael Jackson の振付に合わせて、16分音符でアクセントがキマル瞬間などは、思わず叫び声が出るほどだ。

いちいち譜面に朱書きしていたら、パート譜が真っ赤になるだろう現場指示の嵐。
バンマスを務める Michael Bearden の力量には心底感心せざるを得ない。
現場では、Michael Jackson や Kenny Ortega の要求に加え、ダンサーのパフォーマンス、視覚効果等、あらゆる要素から方向性を把握し、瞬時の判断でサウンドを構成する。
自宅や自身のスタジオでは、現場で起きたことを緻密に検証し、整合性を確認し、より良い方向へ修正する孤独な作業を積み重ねる。
それらの作業を基に譜面を書き、プログラムし、メンバーと的確にコミュニケートして日々のリハーサルをまとめあげていく。
この人、ある程度バンドが固まるまでは、満足に寝ていないだろう。


加えて、Michael Bearden の指示をキッチリとクリアするミュージシャンの努力も想像を絶する。
ミュージシャン達は、もちろんステージ上で譜面などは見ない。
なんせ、ミュージシャンもステージ上ではパフォーマーでなければならないのだ。
ステージに上がる前に自分のパートを憶えておくことなどは当たり前。
自分の仕事を完璧にこなす為には、ステージ上で起きる全てを体の中に叩き込んでおかなければならない。
その為に血のにじむような努力を重ねたとしても、現場では明るくおどけて見せる。
これが本物のショービジネスの現場なのだ。

しかし、このバンドと Michael Jackson の一体感は何だろう。
確かに全員が恐ろしいほどの努力を積み重ねた結果だということは判る。
しかし、だからと言ってこの一体感が形成できるというものでは無い。
そこに、何か神秘的な繋がりが形成されていない限り、これだけの一体感は醸し出せない。
ミュージシャンが時たま体験する奇跡的な瞬間、当方はそれを「ミュージック・マジック」と呼んできた。
自分の才能を超えた何かが起こったような、身震いするような体験。
このステージでは正に「ミュージック・マジック」が起こっているのだろう。
そして、そのミュージック・マジックを、50回に渡るツアーとして常に継続させようとする強い意志。
このリハーサル映像の凄味は、そこにある。

携わる人々全員が、その先にある真に価値あるものを、真に価値ある瞬間を目指している。
映像を通して、ひとりひとりの命が燃えている、その炎が伝わるのだ。
私はそこに打たれる。


普段着で、通常の力の半分以下で、周囲に気を配りながらリハーサルをこなす Michael Jackson。
しかし、その映像の先に、煌びやかな衣装を身にまとい、最先端の技術を駆使し、全身全霊で歌い踊る Michael Jackson の姿が見える。
バンドが奇跡のサウンドを奏で、ダンサー達が宙に舞い新しい歴史を刻む。
目を閉じれば、そんなステージが見れる。


数十万個のスワロフスキーのクリスタルを散りばめた衣装を身にまとい Michael Jackson がステージ・センターで静止する。
0.1秒の狂いも無くステージの照明が落ち、ロンドン O2アリーナの時間が止まる。
100万色のコンビネーションを生み出せるフィリップス社の最新 LED 技術で、踵を上げた足もとの純白のソックスが光り出す。
光は虹色に輝きながらタキシードのストライプを昇り、そして遂には天を指差し高く上げた手袋が輝く。
Michael Jackson にして「夢が現実になった」と言わしめた、衣装デザイナー(Zaldy)渾身の新作だ。
もう片方の手で、目元を隠した帽子のつばをわずかに持ち上げると、Billie Jean のタイトなドラムがスタートする。
あの有名なシンセ・ベースのリフが聞こえてきた瞬間に、地響きのような歓声が上がる。
そんなコンサートになるはずだった。



Billie Jean : Live In New York 2001
画質は劣悪だが、この導入部にはシビレますわ。

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おまけとして、Orianthi のプロモーション・ビデオを貼っておく。
2ndアルバム「Believe」も入手したが、甘酸っぱさを感じさせる溌剌としたガールズ・ロックというのもたまには新鮮で良い。
ただ、若干24歳で人生最大の経験をしてしまったのだから、これからどうなっちゃうんだろうと老婆心ながら気にかかる。
既に世間では「Michael Jackson の This Is It で、Eddie Van Halen のソロを完コピしてた女性ギタリスト」っていう見方になってしまっていて少し可哀想。


According To You : Orianthi

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