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Sade の新譜 [Soldier Of Love] を聞いてみた

Sade の新譜「Soldier Of Love」を買ってみた。
前作 Lovers Rock から9年ぶりの新譜ということで、発売前からそれなりに話題にもなっていたし、まあ、Sade だから。


Solder Of Love


[Soldier Of Love] : Sade
Audio CD (February 9, 2010)
Original Release Date: February 9, 2010
Number of Discs: 1
Label: Sony
ASIN: B002YIHO7I


で、正直なところ、大いなる違和感を感じてしまった。

当方の Sade 体験は、1985年の2作目「Promise」から始まった。
その頃は既に日本でも今井美樹等を筆頭に女性ポップス歌手のほとんどが Sade っぽいアレンジに挑戦していたし、当方の編曲家という立場的にも無視できない状況だったわけで。
それに、まあ、Sade 独特のオリエンタルなオシャレ感ってのは、バブル最盛期にはかなり受けた。
ロンドン辺りの流行に目ざといのセレブリティ達にとって、Jazz、Soul、Raggae 等を英国的湿度の中でミックスした無国籍感の中に、どこか懐かしさも感じるサウンドの印象が、ちょっと秘密めいたニュアンスも手伝ってかなりクールで新しかったわけで。
ただ、Sade というバンドがグラミーまで取る様な世界的なブームになった要因としては、多分に Sade Adu その人が醸し出すムードによるところが大きかったと思われる。
確かに中近東のどこかの小国の王女と言っても通用しちゃいそうなゴージャス感と、官能的でミステリアスな雰囲気は新鮮だったわ。
栄華の中にうっすらと退廃すら感じる甘美な魅力があった。

グラミー・アルバム [ Lovers Rock] より大ヒットした「By Your Side」のビデオ・クリップ。

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「黄金の吐息」それが Sade Adu の歌声を表す形容詞だ。
御意。言い得て妙。
そして、Sade Adu、Paul Spencer Denman、Andrew Hale、Stuart Matthewman の 4人が、唯一無二の「Sade Sound」を作った事は認める。
ナイジェリア、イギリス、そしてジャマイカの空気がかすかなスパイスとなって漂うアレンジ。
極限まで装飾が削ぎ落とされたサウンド、シンプルなメロディ、サンプリング・テクノロジーを駆使しながらもどこか繊細なグルーブ、暖かく奥行き感のあるミックス。
そこから、不思議な事に、むせかえるような豊潤な香りが生まれる。
例えるなら、熟成されたブランデーのような深い味わい。
その中で、Sade Adu の黄金の吐息が揺れる。
実は、その吐息は確かな重さを持つ。
それは、サウンドが芳醇であればあるほど痛々しいほどに感情的に響く。


当方も、その後の Stronger Than Pride(1988)、Love Deluxe(1992)、Lovers Rock(2000)まで、きちんと聞いてきたという自負はある。
今回 Sade のバイオを眺めていたら、この人、当方と同い年ってことに気が付いた。
へえ。
なんだかなあ、俺。
Sade Adu も一時は離婚とかでバタバタしたみたいだが、そうは言っても金は持ってるよな、こいつら。
下世話だが、10年スパンでたまにアルバムを作って、ジャマイカあたりでのんびりと暮す生活ってのは、十分に憧れの対象。

アルバム [Love Deluxe] より「Kiss Of Life」のライブ映像。

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ずいぶん昔の話だが、徹夜明けの飲み屋の女の子と車に乗っていて、「Love Deluxe」を流していたら「眠くなるから他のにして」と怒られた。
特に下心があったわけではないが、なるほど、そりゃそうだわな、と反省した思い出がある。
Sade を端的かつ客観的に言うと、そういう音楽。
タネを明かせば、Sade Sound の構成要素ば、ひとつひとつはかなり単純というか、実は普通に作れる。
目新しいことの何も無い当たり前の曲で、ヒップホップ系の流行りのキットで打ち込んだドラムの上にキーボードで白玉のコードだけ提示する。
ボイシングもモダンなことはせず普通のドミソ。
ギターも目立つこと無く、淡々とバッキングをする。
聞こえるか聞こえないかで現れるオブリガード。
サウンド全体をリバーブ感たっぷりのアナログ・パッドで覆い、時たまパーカッションでアクセントを付ける。
センスの問題と言ってしまえばそれまでだが、楽曲を構成する要素に特段の目新しさは無い。


では何故、彼らの音楽が、唯一無二の「Sade Sound」とまで呼ばれたのか。
前述したように Sade Adu の魔力は存在した。
その内に秘めたエモーションと、人類愛とも取れる力強いメッセージも魅力ではあった。
しかし、それ以上に何か不思議な発酵が作用していたのだと感じる。
つまりは、あの当時の Sade という現象は、その時代と融合して有機的に変化した結果の産物だった。
そう、Sade は「価値観」であり、その価値観が具現化された「現象」だったのだろう。
それが時代のニーズにマッチしたのだと思う。

そして、今回の [Soldier Of Love] よりタイトル・チューンのビデオ・クリップ。

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PV としては、ダンサーの質が低すぎるのが気になるわな。
痩せても枯れても Sade なんだから、予算的に厳しかったということでも無いだろうに。

しかし、相変わらずストイックなサウンドである。
マジに、こいつら楽器が下手なんじゃねえの?って思った時期があるくらい、とにかく弾かない。
楽曲を構成するのに必要最低限のプレイしかしない。
これは、ある意味で凄いこと。

普通、ちょっとは楽器が弾ければ、絶対にもっと弾きたくなる。
誰だって我慢が出来なくなる。
ところが Sade の連中は、ありえないほど「弾かない」のだ。
当然ながら余計な贅肉を削ぎ落とした結晶のようなサウンド作りは重要なコンセプトだから、雰囲気無視の弾きまくりは論外(自戒の意味も込めて)。
かと言って、適切に楽器を弾く事は「悪」では無いわけで、各人のプレイによってはもう少し楽曲の魅力なり方向性なりを浮かびあげることもできるはず。
ところが、Sade の音楽は、まるで我慢大会のように弾かないのだ。
その側面では、逆にこちらが息苦しくなるほど。
この自制心には感心せざるを得ない。


「Soldier Of Love」は、楽曲の肌ざわりが若干ながら硬質に変化した。
Sade Adu の歌唱法も、鋭さを増した事に気付く。
彼女も明らかに歳をとったのだが、それを円熟でごまかさない潔さすら感じる。
しかし、Sade は変わらず Sade だった。
だとしたら、この違和感は何だろう。
たぶん、時代が変わったのだ。
我々が変わったのだ。


もはや、時代は Sade を求めてはいない。
少なくとも、私にはそう感じられた。
だが、今後も Sade は Sade であり続けるだろう。
彼らは変わらないことを選んだバンドなのだ。
栄華と退廃を極めた魔都バビロンがゆるやかに朽ち果てるように、甘美な幻影と滅亡への誘惑。
これから栄華が光を失うにつれ、Sade は、より一層 Sade になるのかもしれない。

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